定型発達とズレてしまう理由とは?発達障害当事者が実践する“言語化×メタ認知”術
はじめに
こんにちは、柚子柿です。今回は、ASD(自閉症スペクトラム)・ADHD(注意欠如・多動症)傾向のある当事者として、私が実生活で感じている「困りごとの正体」を整理し、それを“医学的に説明されている発達障害の代表的な特徴”に紐づけることで、より効果的に対策を打ち出すライフハックをまとめてみたいと思います。
今回の内容は、精神科医の益田先生がお話しされていた「発達障害の患者さんの国語力」というテーマを参考にしながら、当事者がどのように“自分の感性と周囲の感性の違い”を乗り越えていけるのかを深掘りします。
👇
第二部各論 第1章11節 発達障害の国語力・メカニズムと対処法【精神科医が一般の方向けに病気や治療を解説するCh】
最終的な結論としては、「当事者だからこそ発達障害の代表的な特徴を勉強し、困りごとを言語化して“どの特徴に当てはまるのか”を帰属する」という手法が有効ではないか、というお話になります。
ぜひ最後まで読んでいただき、日常生活の“ちょっとしたズレ”をどうやって減らしていくのか、一緒に考えてみましょう。
§専門家の見解を踏まえて:発達障害における3つの特徴
1.共感性・自明性の欠如
益田先生の解説によれば、定型発達者であれば無意識に“周囲の空気”から学んだり、“当たり前”として受け入れるようなルールを、ASD・ADHD傾向を持つ人は意識しないと身につけにくいことが多いそうです。
- 自明性とは?
周囲から暗黙のうちに共有されている情報(例:曖昧な表現や“察して”文化)を、苦労せずに理解できる力。これが弱いと「何が当たり前なのか」が分からないまま過ごし、結果的に相手とズレを起こしやすくなります。 - 共感性との関係
「なんとなく気持ちを汲み取る」「相手の立場になって考える」といった働きが弱いわけですが、決してゼロではない点も強調されています。あくまで弱め、あるいは育ちにくい特徴があるので、意識的なサポートや学習があれば伸ばせる可能性は十分にあるのです。
2.中枢性結合の弱さ
これは、個々の出来事を抽象化し、共通ルールを導き出すのが苦手な傾向を指します。
- 具体例
旅行先で「ホテルが予約でいっぱいだった」→ 次の旅行ではホテルを予約するが、飲食店の予約を忘れ、同じ問題が発生する……というように、「人気のある場所全般は予約必須」という一般法則を導きにくい。 - テスト成績と実生活のギャップ
記憶力が良かったり、言葉を多く知っている当事者の方も多いですが、それらをまとめ上げて応用する力が弱いと、社会生活の中で何度も同じ躓き方をしてしまうことがあります。
3.自動的な行動
定型発達者は、「無意識にアップデートされた共感性」に従い、ある程度柔軟に行動を修正していきますが、発達障害傾向のある方は「自分の中に組み込まれたパターン」をそのまま繰り返しがちです。
- 会話や振る舞いにおける“条件反射”
たとえば「でもさ…」とすぐ口を挟んでしまう、「お決まりの行動パターン」から抜け出せずにトラブルになる、といったケース。相手からすれば「否定されている」と感じてしまうかもしれませんが、当事者本人には自覚がないことも多いです。 - 主体の弱さ?
「自分がなぜそれをしているのか分からない」「やりたくてやっているわけでもないのに、気付けばやっている」といった感覚になりやすいことが指摘されています。
こうした3つの特徴は、LD(学習障害)が絡むケースにも大なり小なり影響することが多いと専門家は言及しています。加えて、当事者のIQ(知能指数)が高くても日常生活の適応が難しい、という現象はこれらの特徴が根底にあると考えられます。
§当事者が語る困りごとのリアル:ズレが生じる具体例
ここでは、私自身(ASD・ADHD傾向あり)の視点で、日常的に起こりがちな「ちょっとしたズレ」を取り上げ、それを専門家が示す3つの特徴に当てはめながら考えてみたいと思います。
①共感性・自明性の欠如にまつわる“曖昧さ”への戸惑い
シチュエーション
親しい友人に休日の予定を聞いたら、「ちょっと用事があってね」と曖昧に返されました。私としては好奇心半分、相手の状況をもっと詳しく知りたい半分で、「具体的に何をするの?」と聞き返したところ、友人は困惑した様子で「いや、察してほしい…」と苦笑い。後で「なんであんなに突っ込まれるんだろう…」と周囲にも話していたようです。
言語化:ズレの正体
これは、いわゆる「察して」文化を読み取れなかったために起きたズレですね。当事者の視点では、予定を聞いて「用事がある」と返ってきた。具体性がなく、どんな用事なのか気になって深掘りしてしまうことがあります。この動機は、単なる好奇心や相手の状況を把握して安心したいという気持ちから来ることが多いです。
一方、定型発達者の視点で考えると、「ちょっと用事がある」という返事は、言いにくい内容だからあえてぼかしている可能性が高いのです。もし具体的に言っても差し支えない用事なら、例えば「明日は歯医者に行く」と正直に言うはずです。定型発達者の世界では、こうしたニュアンスをその場で感じ取り、自然に「ここは深掘りしない方がいいな」と判断しています。
対策:特徴への帰属
この「察して」文化を理解し、適切に対応するには、まず「言いにくいからあえてぼかしている」というパターンが存在することを知りましょう。このズレは、私たち当事者に見られる「自明性の欠如」という特徴に由来しています。
具体的には、会話の中で曖昧な表現が出てきたとき、「あえて詳しく言わない理由があるのかもしれない」と仮定してみることが大切です。また、過去のやりとりを振り返り、「この場面で相手はなぜ詳細を言わなかったのか」を分析する練習をしてみると良いでしょう。
このように、「察して」文化のパターンを覚え、少しずつトラブルの火種を回避する感覚を養うことで、スムーズなコミュニケーションを目指すことができます。
②中枢性結合の弱さによる“応用の苦手さ”
シチュエーション
過去に、旅行先でホテルが予約いっぱいで泊まれなかった経験がありました。そこで私は「ホテルは事前に予約しないと失敗する!」と学び、次に旅行したときはしっかりホテルを予約。しかし、今度はランチ予定だった飲食店が満席で入れず、時間をロスしてしまうという同じような状況に…。
言語化:ズレの正体
これは、「部分的な情報を正確に記憶し、それを忠実に再現する」一方で、そこから抽象的なルールや一般化した考え方を導き出すことが難しいために起こるズレです。具体的には、『ホテルの予約』という教訓を、『人気のある場所全般には予約が必要』というルールとして抽象化できないため、結果的に飲食店では同じ失敗を繰り返してしまいます。このようなズレは、一律的な対応になるという形で現れることが多く、周囲との感覚の違いを生じさせます。
対策:特徴への帰属
この「中枢性結合の弱さ」を克服するためには、まず過去の具体的な経験や失敗を振り返り、「その本質は何だったのか?」と問い直す練習が有効です。例えば、「なぜ飲食店が満席だったのか?」→「人気店だから予約が必要」という学びを得て、それを他の場面でも活かす意識を持つことが重要です。
具体的な練習方法として、失敗した場面をメモに書き出し、『この経験が他のどんな場面に応用できるか』を定期的に振り返る習慣をつけるとよいでしょう。失敗が繰り返される理由を冷静に分析し言語化することで、自己肯定感を保ちながらトラブルを減らしていけます。
③自動的な行動からくる“無自覚な口癖・パターン行動”
シチュエーション
友人や上司の意見を聞く場面で、無意識のうちに「でもさ…」と切り返してしまう癖があるとします。本人には悪気がなく、むしろ「まずは自分の考えを提示する習慣」がついてしまっているだけ。しかし相手からすると「否定されている」「いつも反論される」と不快に感じられ、結果的に距離を取られてしまう。
言語化:ズレの正体
この当事者は「深く考えず、最も慣れたパターンを無意識に選ぶ」という自動的な行動を繰り返してしまっています。このような行動は本人にとってはストレスを避ける手段として合理的ですが、周囲からは「慎重さが足りない」や「言葉の選択が雑」と見られ、ズレが生じる原因になります。
定型発達者の世界では、行動の一つ一つに「社会的な文脈でどう周囲に影響を与えるか」という意味があります。定型発達者は、自分の行動が社会的な文脈の中でどう相互作用するかを見越し、その上で適切な行動を選択しています。
対策:特徴への帰属
「自動的な行動」を克服するためには、「選択のプロセス」を意識化することが効果的です。例えば、会話やメールの返信などの行動を取る前に、「この選択は相手にどう伝わるか?」と自問する習慣をつけるのが良いでしょう。
自分が口にしているフレーズを録音してみる、家族や友人に「どんな言い方をしているか」客観的にフィードバックしてもらうなど、“自動”を“意識”へ変換する工夫を取り入れましょう。
次のステップとして、定型発達者の行動と思考プロセスを観察し、「行動の一つ一つに意味がある」という認識を持つことが重要です。その上で、日常の会話や行動の中で、定型発達者がどう判断し、選択しているのかを観察し、その思考プロセスを自分の中で言語化していくと、徐々に改善につながります。
§致命的ではないけど“なんかズレてる”問題への対処:特徴に帰属しよう
多くの人は、発達障害と聞くと「明らかに極端な行動を取る人」というイメージを持ちがちです。たとえば、電車の乗車位置を頑なに譲らない、会議で空気を完全に無視するといったケースがよく言われています。
しかし、当事者が実際に苦しむ場面として多いのは、「そこまで致命的じゃないが、周囲に小さな違和感を持たれてしまう」というケースです。
- 相手から見れば:「なんとなく噛み合わない」「細かいところを突っ込まれてモヤッとする」など、不信感がじわじわ蓄積する。
- 本人から見れば:「いまいち説明できないけど、どうもうまくいかない…」と悩み続ける。
この“ズレ”を減らすために重要なのが、当事者自身が「なぜ自分はそうなったのか」を言語化して理解するというプロセスです。その際、益田先生などの専門家が紹介する代表的な特徴(共感性・自明性の欠如/中枢性結合の弱さ/自動的な行動)を自覚することが役立ちます。
§実践ライフハック:困りごとを“特徴”に帰属する方法
ここでは、私が取り入れている具体的なステップをまとめます。
- 困りごとが起きたら、とにかく言語化する
- どんな状況で、どんな会話(または行動)があったか、可能な範囲で詳細を記録する。
- 日常のなかで瞬間的に記憶しづらい場合は、スマホのメモやボイスメモなどを活用しておくと便利。
- 専門家が提唱する“3つの特徴”に当てはめてみる
- 共感性・自明性の欠如:「あえてぼかしている部分を深掘りしてしまった?」「相手の言わんとする“ニュアンス”を拾えなかった?」
- 中枢性結合の弱さ:「前回の失敗から抽象的なルールを学べず、同じケースに気づけなかった?」
- 自動的な行動:「つい口を突いて出る否定ワードや、同じパターン行動が原因?」
→自分の出来事をどこに当てはめるか、ざっくりでOKです。
- 当てはめたら、具体的な改善策を考える
- もし「曖昧にぼかされた話を深掘りしてしまった」なら、「今度から“一歩引いて”相手の気持ちを想像するルールを設定しよう」と決める。
- 「前回の経験を別のシチュエーションに応用できない」なら、メモに「今回の状況と似ているケース」をリスト化して、次回こそは予約・事前確認が必要になるかも?と意識する。
- 「無意識の口癖で相手を不快にさせている」なら、1回会話するごとに「でも」と言わずに回答できるかチャレンジする、など具体的な置き換えワードを決める。
- 定期的に“学習結果”を振り返る
- 1~2週間、これを続けてみた結果はどうだったか? メモを読み返し、“少しはズレが減った気がする”など小さな進歩でもOK。
- 変化がなければ、別の特徴を疑ってみたり、周囲にフィードバックを求めてみる。
このように、「困りごと → 言語化 → 代表的な特徴に当てはめる → 対策を立てる → 振り返り」という流れを回していくことで、当事者としてのメタ認知が育ちやすくなります。
§まとめ:小さな“ズレ”を自覚し、長期的な成長へ
私たち当事者は、定型発達者にとっては“ごく自然な感性”がピンとこないことがよくあります。それ自体は決して悪いことではありませんが、社会生活を送るうえで周囲とのコミュニケーションで苦労する原因になります。
- ズレの原因を把握していないと:小さなすれ違いが積もり、長期的に信頼関係を損なったり、自分自身も「自分は何がいけないんだろう」と苦悩し続けるリスクが高まります。
- ズレの原因を理解すれば:一見わからなかったことが、「あ、これは自分の『共感性の弱さ』が作用してるな」「ここは『中枢性結合の弱さ』か」と明確になるので、“分からない”が“分かる!”に変わり、対処もしやすくなるのです。
私自身、この「困りごとを発達障害の特徴に帰属する」というやり方を始めてから、トラブルに遭遇したときのストレスが大きく減りました。以前なら「またやってしまった…」と自己嫌悪に陥るだけだった場面が、「なるほど、これは自動的な行動が原因だな」と言語化できるだけで、改善の道筋をイメージできるようになるのです。
引き続き重要なのは“環境調整”も含め、自分の特性があまり負担にならない仕事や生活スタイルを選ぶこと。加えて、周囲に理解者がいるならば、時々フィードバックをもらいながら改善サイクルを回すことが理想でしょう。
以上、当事者としてのリアルな実践例と、精神科医の指摘する代表的な特徴を組み合わせて、発達障害が引き起こす“ズレ”を改善するライフハックをお伝えしました。すぐに劇的な成果が出るわけではないですが、確実に「自分が理解できる範囲」が広がる感覚を得られると思います。ぜひ、日々の生活で試してみてくださいね!
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません