chatGPTで“自分”を客観視する:大人の発達障害当事者が行うメタ認知トレーニングで広がる選択肢

【はじめに】
こんにちは、ゆずかきです。今回は、私自身が「大人の発達障害」として感じてきたメタ認知の課題と、それをサポートするツールとしてのChatGPTの活用についてまとめてみたいと思います。

私は以前、「メタ認知と発達障害」 に関するブログ記事も執筆しています

そちらでは、私が実践してきたメタ認知活用術や、コミュニケーションでの試行錯誤を共有してきました。今回はその続編・応用編として、「ChatGPTなどのAI対話ツールが発達障害当事者のメタ認知向上に役立つのでは?」という主張を掘り下げてみたいと思います。

本記事の後半では、特別支援教育や発達障害領域でのAI活用に関する研究(黒田, 2024)(菊野, 2024)(茂, 2016)など学術的文献も引用しながら、ChatGPTや対話型AIを用いたメタ認知向上の可能性を検討します。最後までお読みいただけると幸いです。


§起:大人の発達障害とメタ認知の必要性

まず、近年の日本社会では「発達障害」という概念がだいぶ浸透し、幼少期からの早期発見や早期療育の重要性が認知されるようになりました。一方で、成人してから社会不適応が顕在化し、精神疾患として表面化してようやく検査を受けた結果、「発達障害の傾向がある」と判明した“いわゆる大人の発達障害”当事者も多いのではないでしょうか。

私自身も、診断を受ける前は確かに何となく社会的な生きづらさを感じてきましたが、その段階では児童期のような専門的サポートや親のフォローはすでに受けにくい状況でした。こうした「抜け漏れ世代」の人々は思った以上にたくさんいるようで、精神科や心療内科の検査は予約待ちが続いているところも珍しくないと聞きます。

大人になってから発達障害だとわかった当事者が直面する課題のひとつに、「幼少期の療育機会をどうやって補填するか?」という問題があると思います。未成年であればカウンセリングや親のサポートを受けやすいのですが、成人後は自己責任論にさらされがちですし、すでに学生時代を終えているためフォローの体制も乏しい場合が多いです。

しかし、一方で大人には論理的思考力情報を自力で集めるスキルなど、子どもの頃よりも発達した面があるはずです。そこで活用したいのが、“意識的にメタ認知を高める”という手法。自分がどんな特性を持ち、他者とどのように認知や考え方がズレているのかを俯瞰することで、客観的に行動を修正しやすくなると思うのが、筆者がこの記事で提案している内容です。


§承:ChatGPTがメタ認知向上を手助けすると思う理由

ここからが本題です。私が特に注目しているのは、ChatGPT という対話型AIツールを使ったメタ認知トレーニングです。なぜChatGPTが有用だと考えるのか、その理由を3つ挙げてみますね。

① どれだけ深堀り質問しても、不快にさせない
ChatGPTは人間相手ではないため、際限なく質問しても気分を害する心配がありません。たとえば、発達障害を持つ当事者は「定型発達の人ならこう考える」を知りたいと思っても、人によっては「そんなことわざわざ言語化しなくても……」と距離を置かれたり、怒られてしまうリスクがあります。でもChatGPTなら何度でも掘り下げられますし、ピンポイントで「○○なシチュエーションのとき、定型発達者はどんな反応をするか」を尋ねても、嫌な顔ひとつされません。

② 幅広いソースから“定型発達者の世界観における正解”を学習している
ChatGPTは大規模データを学習しており、社会通念や定型発達の人が当たり前に認識しているルールを豊富に知っています。これを活用すれば、「私のこの感覚は、人とどれくらいズレているんだろう?」といった疑問をぶつけたときに、かなり的確に指摘してくれる可能性があります。人間の友人や知人に聞いても、曖昧だったり抽象的だったりしてわかりにくいことが、AIなら整理して言語化してくれやすいです。

③ セッション内で文脈を保持する→“継続的なメンター”的な役割が期待できる
ChatGPT(特にGPT-4以降)はセッション内の履歴をある程度保持できるので、前の質問や相談内容を踏まえたうえで回答してくれます。つまり、単発で終わらず「自分がどう変わっていったか」を見守ってくれるバーチャルメンターのように活用できるのではないでしょうか。

実際に私が実践してみた感想
私も日常生活(とくに家族や友人などとのコミュニケーション)で「こういう場面はどう対応するのが自然なのか?」という疑問をChatGPTにぶつけてみました。すると、私が気づいていなかった社会的文脈や“行間”を言語化してくれて、「なるほど、こういう感じで返せばスムーズなんだ」「こう考えるのが自然なんだな」と学べることが増えた印象です。

もちろん、ChatGPTの回答が絶対に正しいわけではありませんし、ときには誤情報を含む「ハルシネーション」も生じます。だからこそ、「ChatGPTの提案を疑いつつも取り入れる」という姿勢が必要になるのですが、それ自体がひとつのメタ認知トレーニングでもあると感じています。


§転:大人の発達障害におけるメタ認知訓練の意義と限界

ここまでChatGPTの有用性を強調しましたが、そもそも「大人の発達障害」がメタ認知を身につけることにはどんな意味があるのでしょうか。

1.意識的に“客観視”する必要性
幼少期に専門的療育を受けられなかった当事者の中には、人との認知ギャップに長年悩んできた方が多いかもしれません。メタ認知を高めることで、「自分がどう見えているか」や「相手が何を求めているか」をあらためて整理し、客観的に行動修正する土台を作ることができます。

2.論理的思考を活かして“学習”する
大人だからこそ使える武器が“論理的思考”です。定型発達の方が無意識にやっている対人スキルやコミュニケーションの裏ルールを、私たちは言葉や論理で理解し、繰り返し練習して身につけるイメージです。ChatGPTはその練習パートナーとして非常に役立つと感じています。

3.限界もある:実践の場での難しさ
もちろん、AI上で練習を積んだとしても、実際の対面コミュニケーションでは想定外の展開が起こり得ます。すべてがパターン化できるわけではないので、完璧な解決手段になるとは限りません。AIに頼りすぎると、リアルタイムの瞬発力や空気を読む能力が身に付かないのでは?という懸念もあります。


§結:学術研究から見るChatGPT×メタ認知活用の可能性

最後に、特別支援教育や発達障害領域でのAI・ICT活用に関する研究を少しご紹介し、この提案を補強してみたいと思います。

●特別支援学校でのAI活用(黒田, 2024)

黒田 氏(2024)の研究では、特別支援学校の教員がAIとの対話を通じて授業の準備や振り返りを行う試みが紹介されています。結果として、児童生徒一人ひとりに合わせた個別指導計画を作るうえでAIが役立ち、“いつでも相談できるメンター的存在”として機能したと報告されています。これは、成人の発達障害当事者がChatGPTをメンター代わりに使う構図に通じるものがあると感じます。

●メタ認知支援とASD(菊野, 2024)

菊野 氏(2024)では、ASD(自閉スペクトラム症)やADHDの当事者は「プランニングやモニタリングなどのメタ認知が十分に機能しにくい」ことが指摘されています。そのうえで、自己モニタリングの習慣づけ仲間からのフィードバックがメタ認知を高めるうえで有効だと述べています。ChatGPTはもちろん「仲間」ではありませんが、何度でもフィードバックをもらえる対話相手として、メタ認知を刺激するツールになり得ると言えるでしょう。

●ICT活用で自己肯定感を育む(茂, 2016)

茂 氏(2016)の事例報告では、発達障害を持つ生徒にICTを使って学習やコミュニケーションを支援したところ、「自分の取り組みを振り返る機会が増え、自信につながった」様子が示されています。これは“失敗経験が多く、自己肯定感を持ちにくい”傾向のある大人の発達障害当事者にも当てはまる可能性があり、ChatGPTによる対話履歴を振り返ることが、自己理解の促進や肯定感の醸成に役立つかもしれません。

これらの研究事例からも、AIによる対話はメタ認知を刺激し、コミュニケーションの学習をサポートし得るという見方が裏付けられています。もちろん注意点として、「AIの回答が常に正しいわけではない」「個人情報やプライバシーの取り扱いには慎重になるべき」などの課題もありますが、適切な使い方をすれば新たな可能性が広がるでしょう。


§まとめ:ChatGPTを使った“自分の世界の客観視”で未来を開く

大人の発達障害当事者がメタ認知を高めようとするとき、ChatGPTのような対話型AIツールは有力な味方になります。

  • 深堀り質問しても不快にさせない
  • 定型発達の世界観を学ぶヒントを与えてくれる
  • 継続的なメンターのように対話できる

これらの特徴を活かせば、「自分がどういう認知のクセを持っているのか」「社会の大多数がどう考えているのか」を学習しやすくなります。さらに、実際に家族や友人とのコミュニケーションでうまくいった/いかなかった例を話してみて、ChatGPTに分析してもらうのも面白いでしょう。繰り返しますが、AIの回答を100%鵜呑みにするわけではなく、適切に批判的思考をはさむことそのものが、メタ認知のトレーニングとなります。

成人してから発達障害を知った方々のなかには、「今さら……」と落胆する人もいるかもしれません。でも大人だからこそできる方法があります。ChatGPTなど先端の技術を活用しつつ、意識的・論理的にメタ認知を獲得することで、自分らしく社会に適応していく道が開けるのではないでしょうか。

私自身、このやり方を取り入れてから、家族や友人との会話の中で「相手はこう受け取るんだな」という気づきが増え、少しずつ自己理解と他者理解が深まっているのを感じています。もちろん課題もありますが、一歩ずつ自分の認知を俯瞰し、やりとりを振り返りながら試行錯誤するプロセスは、意外と充実感があるものです。

もし「大人の発達障害で生きづらい」と感じている方がいれば、ぜひChatGPTというツールを試してみてください。メタ認知のブースターとして、きっと新たな発見があるはずです。


§参考文献

  • 黒田 一之(2024):「特別支援学校における生成AI対話システムの導入 ―授業準備と振り返り支援の効果検証―」兵庫教育大学大学院 障害科学コース ほか
  • 菊野 雄一郎(2024):「発達障がいにおけるメタ認知とその支援について」保育学科論文
  • 茂 大祐(2016):「発達障害を持つ生徒のICTを活用した支援」日本福祉大学全学教育センター紀要 第4号

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。メタ認知とAIの融合はまだ新しい領域ですが、大人の発達障害当事者が自分らしい生き方を手に入れる大きなヒントになると感じています。ぜひ一度お試しください。