大人の発達障害とは?:当事者が論文を参考にしながらまとめてみた。ASD/ADHDと精神疾患との誤診・合併をどう回避する?
こんにちは、柚子柿です。
今回は、「大人の発達障害(ASDやADHD)の鑑別と合併」 に注目し、精神科臨床の観点から丁寧にまとめてみたいと思います。これまでも私自身、発達障害当事者のメタ認知やライフハックの記事を書いてきましたが、今回はよりアカデミックな根拠を踏まえて、“大人の発達障害と精神疾患” を深く掘り下げます。
本記事の構成は以下のとおりです。
- §はじめに:成人期にも注目が集まる発達障害
- 大人の発達障害とは?
- 論文1『大人の発達障害と精神疾患の鑑別と合併』を読み解く
- 論文2『成人の精神医学的諸問題の背景にある発達障害特性』を読み解く
- 発達障害か? それとも他の精神疾患か?
- まとめ:過剰診断・過小診断を防ぎ、背景にある発達特性をケアする
大人の ASD/ADHD は、周囲から見過ごされてきて、本人も子どもの頃に診断を受けずに大人になったケースが多いのです。最近になってやっと「自分は発達障害かもしれない」と気づく人が増えている一方、過剰診断や誤診も社会問題化している状況。診断がすべてではなく、「なぜ生きづらさが生じるのか」を丁寧に捉え、その背景にある発達特性を理解することが大切です。
※本記事はあくまでも、精神医学に関して素人である筆者が、論文を参考にしながらまとめたという内容です。発達障害という医学に関する内容を扱っていますが、あくまで当事者が論文を参考にしながらまとめたという前提は踏まえた上でご覧いただけますと幸いです。
§はじめに:成人期にも注目が集まる発達障害
以前から「自閉症」「アスペルガー症候群(AS)」などの名称で、小児期における発達障害は知られていました。しかし2000年代後半以降、「大人のASD」「大人のADHD」という概念がクローズアップされ始めています。
- 子どもの頃から言葉の遅れや落ち着きのなさがあっても、本人と周囲が「ちょっと変わった子」程度にしか認識していなかった
- 環境の変化(大学進学、就職、結婚、転職など)で社会適応が難しくなり、初めて「発達障害の可能性」を考える人が多い
一方で、「一見 ASD/ADHD に似た症状」を示すほかの精神疾患との誤診、さらには「もともとの性格や不適切な育てられ方が原因の心理的問題」を「発達障害」扱いしてしまう過剰診断が起きているとも指摘されています。
本記事では、そうした複雑な背景を整理するために、下記の2本の論文を中心に大人の発達障害をめぐる論点を網羅的にご紹介します。
- 「大人の発達障害と精神疾患の鑑別と合併―その意義」(宮岡 等・小川陽子)
- 「成人の精神医学的諸問題の背景にある発達障害特性」(澤原光彦 ほか)
また、厚生労働省の資料など公的機関のデータを参照しつつ、ASD・ADHD の特性が成人期にどのような形で表れるか、さらにどんな形で精神疾患と合併・鑑別が必要となるかを具体的に紐解いていきたいと思います。
§大人の発達障害とは?
まず、発達障害とは、医療的に言えば
- 自閉症スペクトラム障害(ASD)
- 注意欠如・多動性障害(ADHD)
- 学習障害(LD)
などを総称する概念です(発達障害者支援法による定義)。
特徴的な3つのポイント(ASDの場合)
- コミュニケーションの難しさ(言外の意味が読めない、冗談や比喩が伝わりにくい、など)
- 社会性の障害(他者の気持ちを読み取りにくい、人間関係の距離感が苦手)
- こだわりの強さ・想像力の乏しさ(予定変更への強い抵抗、興味対象の偏り)
ADHDの場合
- 不注意(集中力が続かない、ケアレスミス、物の紛失)
- 多動性(じっとしていられない、落ち着きがない)
- 衝動性(相手の発言を待たずに話す、思い立ったらすぐ行動してしまう)
ただし、こうした特徴は幼少期から存在している一方、IQや環境適応の程度などで見落とされやすいケースがあります。大人になってから初めて「自分は実はASD/ADHDでは?」と気づく人も少なくありません。
§論文1『大人の発達障害と精神疾患の鑑別と合併―その意義』を読み解く
宮岡 等 氏・小川陽子 氏による論文(以下、論文①と呼称)は、
- 大人の ASD/ADHD の診断において重要なのは、小児期からの発症・連続性を把握すること
- 発達障害を「ひとくくり」にせず、ASDとADHDそれぞれの観点で評価すること
- 大人になってから分かる ASD/ADHD には、他の精神疾患との境界が不明瞭な例が多い
といった点を強調しています。
1. 過去の特徴と現在の症状をセットで見る
発達障害は本来、「幼少期に特有の症状が表れており、それが成人期まで連続性をもつ」もの。したがって、大人になってから発達障害を疑うなら、「子どもの頃からどんな行動特性があったか」を丁寧に聴取する必要があります。
しかし、論文①でも指摘されているように、
- 本人や親が正確に覚えていない
- 「大人の発達障害」という情報をネットで得て、思い込みや誤った再解釈が生じる
など、事実確認が曖昧になりやすい問題があります。
2. 発症年齢の検討が鍵
統合失調症やうつ病などは、思春期以降・成人期以降に急激に発症するケースが多い。一方、ASD/ADHDは幼少期からが原則。
- 途中で環境が変わったことで初めて症状が顕在化したように見えても、根っこはずっとあった
この「発症タイミング」を見極めることが、他の精神疾患との鑑別において非常に重要だと論文①では述べられています。
3. 環境要因や性格形成も鑑別に影響
論文①が強調しているのは、「ASD/ADHDが実際は軽度だったのに、周囲の不適切な関わり方や過酷な環境で性格面が大きく歪んでしまった」というケースです。
- こうなると、表面にはパーソナリティ障害や神経症的症状が前面に出てしまい、ASD/ADHDの特性が埋もれる
- あるいは「単に養育環境の問題で心の不調がある人」を誤って「ASD」だと過剰診断してしまう
このように、性格・環境・発達特性が絡み合うことで、合併や誤診が起きやすい。
4. 心理検査の限界
WAIS(成人知能検査)の下位項目のバラつきなどを根拠に「ASDだ」と断定するケースがありますが、論文①はそれを補助的な材料としてしか使えないとしています。
- 本質は「小児期からの特徴+現在の生活困難度+周囲からの報告」であり、心理検査はあくまで参考
5. 大人の発達障害と他の精神疾患との鑑別ポイント
論文①では、特に次のような組み合わせで誤診・合併を議論しています。
- ASDと統合失調症:感覚過敏を「幻聴?」と取り違えたり、対人下手を「自閉」と誤って統合失調症と診断しやすい
- ASDと強迫症状/摂食障害:こだわりの強さが強迫的に見える場合がある
- ADHDと躁状態:落ち着きの無さ、多弁などが双極性障害の軽躁と混同される場合がある
結局のところ、幼少期からの連続性をしっかり調べれば鑑別できると論文①は述べます。一方で、「長年 ASD/ADHD に気づかれず、二次的な鬱状態や不安障害を発症している」ケースも多く、そういう場合は合併としてとらえ、両面からアプローチする必要があるとのことです。
§論文2『成人の精神医学的諸問題の背景にある発達障害特性』を読み解く
澤原光彦 氏 ほかによる論文(以下、論文②)は、成人期に典型的に観察される精神疾患の背後にASD(広汎性発達障害)やADHD傾向が潜んでいる事例を、症例報告風にまとめています。
- ASD傾向が強い人がストレスによって“統合失調症様”症状を呈する
- うつ病や双極性障害と診断されたが実際はASDの不安耐性の低さが原因
- 摂食障害や心身症の原因がASDによるコミュニケーション苦手・失感情症(アレキシサイミア)に起因していた
1. 統合失調症と混同しやすいASD症状
論文②では、「統合失調症と誤診されやすいASD」のケースが挙げられます。
- ASDの感覚過敏による“聞こえる感じ”が、他者からは「幻聴?」と思われる
- 自分の世界に没頭して独り言が多い → 「陰性症状や作為思考?」と誤解されがち
しかし、実際に丁寧に問診してみると、「自我の障害」や「侵入的な思考」は見られないことが多く、単なる感覚過敏や言葉の独特さであることが分かる、と論文②は述べています。
2. 心身症・強迫性障害にも隠れたASD?
論文②では、発達障害当事者がストレスを言語化できずに身体症状へと直結してしまう「alexithymia(失感情言語化症)」的な特徴が、心身症や過度の健康不安(心気症)につながると指摘しています。
- ASD特性ゆえに、自分が疲弊していることやストレスを「自覚」できない
- 結果的に身体症状として噴出し、検査しても異常が見つからないまま長期化
また、強迫性障害についても、ASDの「こだわり」が強迫行為と見分けがつきにくいパターンが存在すると言及。
3. 境界性パーソナリティ障害(BPD)とASDの違い
BPDは「他者の心理をある程度読めるからこそ、操作的な人間関係」を作り出しがちですが、ASD当事者の対人トラブルは、そもそも「相手の感情を読み取れず、本人も意図せず混乱する」パターンが多いという対比が論文②でされています。
- ASD 当事者の衝動的行動や混乱は、BPDのような「相手を振り回す意図」とは異なる
§発達障害か? それとも他の精神疾患か?
両論文に共通しているメッセージは、「ASD/ADHDと、他の精神疾患との鑑別や合併を語るときは、生育史や連続性、本人の認知特性への丁寧なアセスメントが不可欠」ということです。
- モデル的には「幼小児期から続く特性」
- もしも思春期以降に急激な人格変化や幻覚妄想が出現したなら、それは統合失調症・双極性障害等の可能性が高い
- ただし環境が変わったことで初めて障害が表面化するケースもあるので、連続性が見えにくい場合もある
- 診断基準に当てはめるだけでは不十分
- DSM などは横断的な症状把握を重視するため、ASD/ADHD の特性を二次症状だけで「うつ病」や「不安障害」としてしまうこともある
- 他方、ASD として一度診断されると、今度はうつ病や不安障害が見逃されることも(過小診断・過剰診断の両面リスク)
- 薬物治療の安易な導入に注意
- ADHD治療薬や抗精神病薬が乱用されるケースも問題視されており、ASD/ADHDと診断されたからといって即投薬が正解とは限らない
- 実際には環境調整や心理社会的アプローチが効果的な場合が多い
§まとめ:過剰診断・過小診断を防ぎ、背景にある発達特性をケアする
大人の発達障害をめぐる議論は、「実は見落とされていただけで潜在患者が多い」という面と、「何でもかんでも発達障害とラベリングしてしまう」という面の両方があります。論文①と論文②から得られる示唆としては、以下のポイントが重要そうです。
- 幼少期からの連続性をチェック
- 発症のタイミングや生育歴を丹念に調べることで、統合失調症や双極性障害などとの鑑別が可能になる。
- 環境要因・性格形成も考慮
- 軽度のASD/ADHD傾向+不適切な生育環境で、二次的な人格問題や精神疾患が引き起こされることが多い。
- こうした場合、発達障害の特性を丁寧にケアするだけでなく、性格面の課題にもアプローチが必要。
- 心理検査はあくまで補助
- WAISなどの知能検査だけで発達障害と断定はできない。
- 最終的には丁寧な問診と周囲からの情報が不可欠。
- 薬物療法に安易に飛びつかない
- ADHD薬の濫用リスク、ASDに対する安易な薬物投与などに注意。
- その人の社会生活での支障をどう緩和するか、環境調整や特性に合わせた支援こそが肝要。
大人の発達障害は“レッテル”ではなく“本質的な特性理解”のために
「自分は発達障害なのか? それともただの性格なのか?」と悩む方は多いです。大切なのは、診断名そのものではなく、「その人が社会で生きやすくなるため、どういう特性があるかを把握して最適な支援や配慮を組み込むか」にあります。
特に、当事者が「自分にどんな特徴があるのか」を理解し、職場や家庭などの周囲が「こういうサポートが必要なんだ」と認識すれば、多くの苦労やトラブルを回避できます。逆に、過度に「病名」に縛られ、「ASD/ADHD = 薬を出せばいい」という発想になってしまうと、見落とされる課題も増えてしまうでしょう。
🔑本記事のポイントまとめ
- 大人の発達障害(ASD/ADHD)の診断は、子どもの頃からの連続性や生育環境を丁寧に確認するのが重要。
- 環境要因や性格形成と絡み合い、ほかの精神疾患(統合失調症、うつ、双極性障害、パーソナリティ障害など)と誤診・合併されやすい。
- 心理検査(WAIS等)はあくまで参考程度。最終的には問診や周辺情報で慎重に判断すべき。
- 薬物療法は慎重に:当事者が本当に困っている生活上の部分にアプローチし、環境調整や心理社会的支援を導入することが欠かせない。
- 過剰診断・過小診断を防ぎ、背景の発達特性への理解を深める:大人の発達障害を正しく捉えることで、支援や周囲の関わり方が大きく変わる。
§おわりに
以上、2本の論文(宮岡 等・小川陽子 氏、澤原光彦 ほか)を通じて、大人の発達障害と精神疾患の鑑別と合併に関するエッセンスをまとめてみました。特に大切だと感じたのは、「生育歴」をしっかり聞き取ることと、「どんな困難がいつから続いているか」を正確に把握することです。
私自身(ASD/ADHD傾向の当事者)としても、周囲の適切なサポートがあれば、辛い二次障害を防ぎやすいと実感しています。逆に、放置してしまうと不登校、失職、引きこもり、さらにはうつ状態や対人トラブルにつながるリスクが高まります。
“発達障害”という言葉が急速に広まる中、誤解や誤診も増えている現状を踏まえ、「自分らしく生きるために、どんな特性があって、どんな環境調整が必要なのか」をじっくり考えていただけたらと思います。医療者・支援者の側も、一人ひとりの特性を丁寧に見極める姿勢が求められますね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
【§参考文献・資料】
- 宮岡 等・小川陽子:大人の発達障害と精神疾患の鑑別と合併―その意義. 『心身医』Vol.59 No.5 (2019) p.416-420
- 澤原光彦 ほか:成人の精神医学的諸問題の背景にある発達障害特性. 『心身医』Vol.57 No.1 (2017) p.51-57
- 厚生労働省:令和元年度 就労準備支援事業従事者養成研修 発達障害の理解(障害児・発達障害者支援室資料, 2019)
- 発達障害者支援法(2005年施行)
- ICD-10, DSM-5:発達障害に関連する国際分類・診断基準
以上になります。ぜひ参考にしてみてください。私自身、当事者として試行錯誤しつつ、臨床研究の動向もキャッチアップしながら、今後も発達障害に関する情報を発信していきたいと思います。
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