LCM(Large Concept Models)徹底解説:大規模概念モデルで切り拓く多言語×マルチモーダルの未来~トークンから文レベルへ進化する次世代AIの全貌~

2025年1月15日

はじめに
こんにちは、ゆずかきです。今回は、いま大変注目されている 大規模概念モデル(LCM:Large Concept Model) について解説します。世の中にあまた存在する大規模言語モデル(LLM)とはまったく異なるアーキテクチャを採用しており、学習から推論に至る流れが従来とは大きく異なっているのが特徴。個人ブログ用の技術記事として、初心者から中級者をターゲットに、「論文を実際に全て読まなくてもわかる」というレベル感で書き進めていきます。

今回の記事では、

  • LCMの概要
  • 既存のLLMとの違い
  • LCMが目指す方向性(例:多言語化やモーダル拡張)
  • アーキテクチャの詳細(概念空間/SONAR/Diffusionモデルなど)
  • 評価実験の詳細
  • 実際のユースケースや今後の課題

などを、丁寧かつ網羅的にご紹介します。内容がとっても盛りだくさんなので、実装や再現実験をするというよりは、その前の「まとめ読書ノート」として位置づけるイメージですね。ぜひ最後までお付き合いください!



前置きとして、このモデルは「GPTなどの従来のLLMが単語レベル(トークンレベル)で学習・推論している」のに対して、LCMは「文レベルの概念(執筆時点では“sentence embedding”に相当)で学習・推論する」というのが最大の特徴です。
なので、本記事では「あれ、LLMとの違いは?」「文の埋め込みってどんな手法を使っているの?」といった疑問にフォーカスしながら読み進めていきましょう。

それでは、順を追って解説していきますね。

参考にした論文URL
👇
Large Concept Models: Language Modeling in a Sentence Representation Space


§LCM (Large Concept Model)とは?

まず、LCMを論文風の表現でざっくり述べると、

「従来のトークンベースのモデルではなく、より高い抽象度(“concept”)のレイヤーで推論するアーキテクチャを提案し、実践的に大規模学習させたモデル」

という形です。

論文を読んでいて最初に出てくるキーワードが「Concept」。

  • LLMは “自分が次に出力するトークン” を予測し続けることでテキストを生成する(=トークンレベル)。
  • LCMは “次に出力すべき文の埋め込み” を予測し続けることでテキストを生成する(=文レベルの概念空間)。

という違いが軸になっています。「なぜそんなことをするのか?」というと、ざっくりこんな背景があります。

人間が言語を使うとき、単語一つ一つよりももう少し高いレイヤー(文や文意など)を意識して思考する。単語を継ぎ足していくよりも、まずは「どんな文を言おうか」を先に検討する方が自然ではないか。
つまり、入力も出力も文レベルの埋め込みとして処理できれば、単言語・多言語・多モーダル(音声や画像)をまとめて扱えるし、情報量の削減・推論速度の向上も期待できる(実際には実装次第ですが…)。

AI研究では「ちょっと粒度を粗くしたパイプラインを入れると推論が安定する」という発想は度々登場しており、その一大事例が今回のLCM。


§SONARによる文埋め込み

LCMの根幹を支えるのが、SONAR という文ベクトル空間(sentence embedding)です。従来のBERT由来のsentence embeddingなどもありますが、SONARは 200言語のテキストや音声をまとめて一つの文埋め込み空間に押し込んだ という、とんでもなく多言語かつ多モーダルに対応したモデル。
LCMの処理フローは、

  1. 入力テキストを文ごとに分割 する
  2. 各文をSONARでエンコード し、文のベクトル表現を得る(=コンセプトと呼ぶ)
  3. LCM本体にて次の文ベクトル(Concept)を生成
  4. 生成された文ベクトルをSONARデコーダでテキストに戻す

という形です。このとき、SONARには多言語や音声まで対応可能なしくみがあり、要するに「文レベルであれば、言語をまたいでも同じ埋め込み空間で扱える」という前提のもと、「LCMは言語やモーダルを意識せずに文の意味だけを操作する」という設計になっています。

ただ、「SONARは主に翻訳(パラレルコーパス)を中心に学習されたモデルゆえに、プログラムコードや数字列、リンクなどには弱いかも」などの課題感も論文で触れられており、LCMとSONARをセットで発展させていく必要がある点は留意が必要です。


§LCMアーキテクチャの詳細

論文では、いくつかのバリエーションが検討されていて、大きくまとめると以下の4種類。

  1. Base-LCM
  • ごくシンプルに、Transformerの自己回帰モデルにて「次の文ベクトルをMSEで回帰」するだけのアプローチ。
  • しかし、文ベクトルの分布は多様性が高すぎて「平均的なベクトルを出してしまう(モード崩壊?」)問題が発生、とのこと。
  1. Diffusion-based LCM (One-Tower / Two-Tower)
  • ベクトルの分布を扱うのに強力とされる 拡散モデル(Diffusionモデル) の考え方を導入。「ノイズ→デノイズ」のプロセスを自己回帰的に実行。
  • One-Tower は単一のTransformerで、ノイズつきベクトルを入力して出力を回帰する方式。
  • Two-Tower は Contextualizer(コンテキストをエンコード)と Denoiser(ノイズ除去して次の文を生成)に分割。
  • 結果的に、Base-LCMより良好なパフォーマンスを出せたようです。
  1. Quant-LCM
  • そもそも文の連続空間に直接Diffusionを当てるのではなく、「文埋め込みをRVQ(Residual Vector Quantization)で離散化し、tokenに近い形にしてしまう」案。
  • しかしSONARがそもそも量子化を前提に作られていないので、かなり巨大な辞書サイズが必要になり、まだまだ微妙な性能とのこと。

まとめると、

  • Base-LCM(単純MSE)では「1つの答え」に落ちすぎる(平均ベクトルっぽくなりがち)
  • Diffusion版はベターだが、まだまだ探索の余地あり
  • Quant版は今後の研究課題

という感じです。特に Diffusionベースで文ベクトルを「段階的にサンプリングしていく」というのが面白く、画像生成で成功を収めた拡散モデルが言語に応用されている点が興味深いところです。


§評価実験

論文では主に、次の文をどれだけ適切に生成できるか、あるいはサマリ生成(要約)やサマリエクスパンション(短い文章から長い文章への展開)、また多言語対応 などを評価軸にしている印象です。ここでは主要な実験をピックアップして解説します。

(1) 次文予測タスク

ある長文を文分割し、先頭n文を与えてn+1文目を生成させる。生成されたベクトルをデコードし、そのテキストを評価する。

このとき、

  • MSEのほか「Round-Trip距離」:生成した文ベクトルをテキスト復元→再度エンコードした結果と元ベクトルとの距離
  • Contrastive Accuracy(CA) :たくさんの文ベクトルの中から正解文ベクトルがどれだけ近いか
  • Mutual Information(MI) :GPT2などを使って文脈との相互情報量をざっくり推定する
  • PAR :単に文脈のどれかをパラフレーズしているかの度合い

と、通常のトークンベースLMの Perplexity に相当する指標が使えないので、論文では複数の独自指標を駆使して総合評価している状態ですね。総じて、Diffusion版LCMが安定して良いスコア を出しているそうです。

(2) 要約タスク(CNNDailyMail、XSum、LCFOなど)

さらに、単純な次文予測だけでなく、文章全体を通じた生成タスク(サマリや長文生成など)も評価しています。具体的には:

  • CNN/DailyMail:おなじみのニュース記事から要約するタスク
  • XSum:超短い要約を生成するタスク
  • LCFO:長文要約(原文の5%・10%・20%など、指定した長さに要約)

比較対象としては、T5やLlama、Mistralなどの(大体同じパラメータ規模の)モデルを選択。結果としては、以下のような傾向だそうです。

  • LCMの要約は抽象的で「被りn-gram(OVL-3)が少ない」、要するに文脈のコピペをあまりしない傾向。
  • 重複n-gram(REP-4)も少なく、繰り返し出力が減った。
  • 一方でLLMを基準とした評価指標(たとえばCoLAスコアなど)ではLCMの方が低く出てしまう場合あり。これは「モデルベース評価がLLMの文体にバイアスされがち」なのでは、という見方が論文には書かれています。

面白いのは、多言語タスク(XLSum)でもそもそもLCMが英語でしかfine-tuningしていないのに、SONARの多言語対応により英語以外の言語にもゼロショットで対応できる。たとえば英語以外の言語(ヒンディー語、タイ語など)に対しても、とりあえず要約が生成されるというのは驚きですよね。


§LCMの強みと課題

上記のような実験を踏まえ、LCMにはこんな強みがある(が、課題もある) と論文にまとめられています。

強み

  1. 明示的に文レベルで長文を扱うので、長文コンテキストを扱うときに計算効率が良い可能性
  • LLMが1万トークンの入力を全部Transformerに通すのと比べ、LCMは「数百文」に圧縮できれば計算量を削減しやすい。
  1. 多言語・多モーダルとの親和性
  • 埋め込み空間がそもそも共通化されていれば、音声でもテキストでも、似たような文意味を持つ発話は同じ場所にマッピングされるので、言語や形式を意識せずに「文意」をいじれる。
  1. 分割統治的なコヒーレンス制御
  • 章立てやパラグラフなどをきめ細かく扱えるはずで、さらに「Paragraphごとのハイレベルな埋め込み」などの階層化を将来的には目指す。

課題

  1. 文埋め込み空間への過度の依存
  • 文埋め込み空間SONARが「翻訳の平易なテキスト中心」に学習されているため、プログラムコードとか数字列に弱いなどの課題。
  • さらに、文が多様すぎて「未学習に近い文ベクトルが大量に出現」しやすい。結果的にDiffusionでのモデリングが思うようにいかない場合も。
  1. 生成したベクトルが、有効な文としてデコードできるかの保証が無い
  • 連続空間なので、本来「文の意味」が存在しない座標に落ちると破綻する。
  1. まだ単純な次文予測や要約にしか特化していない
  • これをLLMレベルで発展させていくにはさらなる大規模化・学習スキームの工夫が必要。

要は「理想的には一気通貫で“概念空間”を学習したいが、現時点ではSONARという既存のエンコーダを凍結して使っているので、最適化の自由度が低い」なども大きな制約点として挙げられます。ここを何とかするのが今後の大型研究テーマという感じですね。


§論文のまとめ

論文の結論としては、「トークンベースのLLMに対して明確に異なるアーキテクチャを提案し、実際に数十億規模のパラメータで実装した結果、一定のタスクでLLM並みに健闘することを確認できた。特に多言語ゼロショットで強い潜在力を持つ」 という部分が最注目といえそうです。

ただし、LLMがやってきたようなきめ細かいtoken-levelの出力制御(プログラムや数式など)は、今のLCMではまだ難しそう。
また、Diffusionモデルならではの「生成多様性」「複数候補の同時出力」などは可能性を感じるものの、まだまだ課題は山積み。その分、今後の研究次第では 「LLMの次のパラダイム」 になり得るかも?という印象ですね。


§実運用や今後の展望

論文には運用の事例などはそこまで具体的に記載されていませんが、「多言語 + 長コンテキスト処理 + マルチモーダル拡張に強い」 という性質を備えていることから、将来的にはたとえば:

  • 1つのモデルで、ニュース記事やブログ、音声インタビューなどを統合的に要約
  • 2万ワード以上のテキストを分割して扱っても計算量が爆増しにくい(概念空間で短シーケンスに圧縮できるから)
  • 将来的に、文章構成(アウトライン)を高次元の概念ベクトルで管理し、段階的に展開する

などの取り組みにつながりそうですね。
実際、論文の後半には「段落レベルのコンセプト導入」「文と文をつなぐ前に“Plan”を明示的に置く」といった発展を試しており、Coherence(文同士のつながりやすさ)を高める実験結果が報告されています。

これをさらに大規模パラメータ(70Bや100Bクラス)へスケールさせるとなると、さすがにまだ課題やチューニング項目が多いのが実情。でも、新しい概念をどこまで伸ばせるかは大きな注目点でしょうし、研究者コミュニティも面白がりそうですよね。


§おわりに

LCM は、トークンベースLLMとは異なる次世代アーキテクチャの候補としてかなりユニークな位置づけにある印象です。今回の記事では、論文の骨子を余すところなくご紹介しました。

  • 従来:トークン単位で計算 → LCM:文ベクトル単位で計算
  • SONAR空間:200言語 & 音声対応、でもまだ課題あり
  • Diffusion的アプローチ:モード崩壊への対処?
  • 評価:多言語にゼロショット対応できる・要約タスクで一定の性能
  • 残る課題:トークンレベルの細部制御が難しい・文ベクトル分布自体をどう最適化するか

業界的には依然としてLLM全盛の時代ですが、「LLMをもう一段抽象的にしたモデル」 という発想は技術的にも興味深いですし、今後のマルチモーダルや超多言語展開の新たな地平を開く可能性があるかもしれません。

個人的には、特に

  • 「拡散モデル × 文表現 × 大規模学習」
  • 「アウトライン/プランニングをエンベディング空間に組み込む」

あたりのトピックが面白そうだなぁと思いました。まだまだ初期段階ではあるものの、研究コミュニティでLCMや同系のモデルがどう発展していくのか、しばらくウォッチしていきたいですね。

それでは、今回の記事は以上となります!最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

また次回の記事でも、面白い大規模モデルの話題やプロンプト設計のノウハウなどを紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに!


この記事の主なポイントまとめ

  • LCM:文レベルの概念(コンセプト)空間で推論するモデル
  • SONAR:200言語対応の大規模埋め込み空間。音声も埋め込める
  • DiffusionやQuantなど複数方式が試されたが、現時点ではDiffusion型が有力
  • LLMに比べ、要約等のタスクで抽象的・重複が少ないテキストを生成しやすい
  • トークンレベルの制御やプログラム生成などはまだ課題。今後の研究次第

生成AI

Posted by yuzukaki-dialog